米英豪加の大学専攻と企業需要にギャップ:米では工学や会計が不足
教育コンサルティングのNous Groupらによる報告書で、米国など主要4カ国において学生の専攻関心と企業の採用需要の乖離が判明。特に米国では工学や会計、金融、看護の不足が顕著です。将来を見据えた専攻選びの視点を解説します。
この記事のポイント
- 米英豪加で企業の雇用需要と学生の関心の乖離が拡大していると報告
- 米国では工学・会計・ファイナンス・看護で企業の需要超過が最も顕著
- AI普及で技術力だけでなく判断力や学習意欲を兼ね備えた人材が重視
米英豪加の大学専攻と雇用需要のミスマッチを調査した新レポート
海外大学への進学を考える際、多くの受験生や保護者の方が「大学で何を学び、卒業後にどのような仕事に就けるのか」という卒業後の進路を重視されているのではないでしょうか。しかし、学生が学びたいと考えている分野と、雇用主である企業が実際に求めているスキルの間には、国によって小さくないズレが生じている実態が明らかになりました。
国際教育の動向を発信するICEF Monitorが取り上げた調査報告書「University as a Connector 2026」によると、留学先として主要な4カ国(米国、英国、オーストラリア、カナダ)において、企業の採用需要と進学希望者の関心との間にギャップが存在していることが示されました。この調査は、国際教育コンサルティング企業のNous Groupと大学情報プラットフォームのStudyportalsが共同で作成したものです。
報告書では、2022年から2025年にかけて、ビジネス、工学(エンジニアリング)、医療、デジタル技術、教育、看護などの主要分野で、企業側の需要と学生側の関心の差が拡大したと指摘されています。これらの分野は社会や国の基盤を支える重要な領域であるため、人材の供給不足は社会的な課題としても捉えられています。
企業需要と学生の関心に広がるギャップ:背景と調査データ
今回の調査では、Studyportalsに集まる各国の専攻分野へのアクセスデータ(学生の関心)と、求人広告の応募資格要件を分析するLightcastのデータ(産業側の需要)を突き合わせて分析が行われました。その結果、世界的に安定した仕事につながる進路への関心は高いものの、具体的にどのような専攻やコースが市場で求められるスキルを提供しているのかについて、学生側に十分な情報が届いていない可能性が浮き彫りになりました。
米国における需要超過分野:看護・会計・ファイナンス・工学
調査対象となった4カ国の中で、企業の需要と学生の供給の不一致が最も大きかったのが米国でした。
米国市場では、特に以下の分野において、企業の需要が学生の関心を大きく上回っています。
- 看護(Nursing)
- 会計(Accounting)
- ファイナンス(Finance)
- 工学(Engineering)
特に医療や看護分野における不一致について、報告書は米国の高齢化や慢性的な医療現場の人手不足を背景に挙げており、極めて懸念すべき状況であると述べています。
また、ビジネスや工学といった分野でも企業の強い需要に対して学生側の関心が追いついていません。ビジネス分野と一口に言っても非常に広範ですが、企業は「商業、財務、業務運営、分析能力」といった実務的で専門的なスキルを持つ人材を求めているとされています。そのため、単にビジネス全般を学ぶだけでなく、具体的な専門分野を深める重要性が示唆されています。工学分野についても、国のインフラ、エネルギー、防衛、技術の基盤となる重要分野であるにもかかわらず、学生の関心が需要を下回っている状況です。
AIの影響とコンピュータサイエンス分野の変化
情報技術やコンピュータサイエンス(CS)の分野では、生成AIなどの急速な技術発展による変化が見られます。報告書によると、AIの影響などにより、従来のプログラミングを中心としたコンピューティング卒業生に対する企業需要はわずかに軟化しているとされています。
しかし、これはAIによって人間の人材需要が失われていることを意味するわけではありません。世界経済フォーラム(World Economic Forum)の2025年の雇用者調査では、最も評価されるスキルとして「技術的なリテラシーに加え、判断力、創造性、そして学び続ける能力を兼ね備えたスキル」が挙げられています。
報告書は「専門的なAIの職種は急速に増加しているが、より大きな変化は、専門業務全般にわたる中核的能力としてAIが台頭していることだ」と論じています。つまり、大学側には特定のAI専門家を育てるだけでなく、文系・理系を問わずあらゆる分野の卒業生がAIを活用できるカリキュラムを提供することが求められています。
各国の状況比較:英国・オーストラリア・カナダの動向
調査対象となった他の3カ国の動向にもそれぞれ特徴があります。
- オーストラリアと英国: 4カ国の中では、企業のスキル需要と学生の関心の一致度が比較的高いと評価されています。ただし、オーストラリアでは2022年から2025年の推移において、ビジネスや医療科学の企業需要が増加した一方で、学生側の関心が低下しました。英国では工学や教育、医療科学で強固なパイプラインができている一方、生物科学、IT、物理科学、環境関連分野では市場の吸収力を上回る学生の関心が集まっており、学生ローンの負担を抱える学生にとって学士課程が十分な対価を提供できているかという議論につながっています。
- カナダ: ビジネス、医療科学、工学、コンピューティングの需要が強く成長していますが、2022年から2025年にかけて工学やビジネスへの学生の関心が低下しました。医療科学や心理学では需要と関心の合致が見られる一方、生物科学、数学・統計、コミュニケーション・ジャーナリズム、IT分野では需要の軟化に対して学生の供給過多が生じています。
日本の受験生・保護者への影響と専攻選びの視点
海外大学を受験する際、志望理由書(エッセイ)や出願書類で志望専攻(Major)をどう設定するかは重要な検討項目です。今回の調査結果は、日本の受験生にとっても進路戦略を立てる上で有益な示唆を含んでいます。
米国大学での専攻選びと社会的な需要
米国の大学の多くは、出願時や入学時に必ずしも専攻を確定する必要がなく、リベラルアーツ教育を通じて2年次終了時までに専攻を宣言するシステムを採用しています。しかし、近年人気の高いコンピュータサイエンスや一部のビジネススクール、工学部などは、定員や出願倍率が非常に高い傾向にあります。
もし将来的に米国や海外でのインターンシップ、就職を視野に入れている場合、現在の市場でどのような分野が不足しているのかを知ることは不可欠です。米国で需要が供給を上回っている会計、ファイナンス、工学、看護などは、社会的なニーズが明確に存在しています。
ただし、留学生への適用は大学の公式情報で確認が必要です。留学生が卒業後に現地で就労するためにはビザの条件(米国におけるSTEM分野のオプショナル・プラクティカル・トレーニングなど)や、国家資格の取得要件が絡むため、雇用需要が高い分野であっても留学生がそのまま就職できるかどうかは、各大学の留学生向けキャリア支援窓口や公式制度を必ず確認してください。
単なる専攻名ではなく実務的な専門スキルを重視する
今回のレポートで注目すべきは、企業が単に「ビジネス専攻の卒業生」を求めているのではなく、「財務分析ができる」「業務改善の知識がある」といった実務的で専門的な能力を求めているという点です。
これから海外大学を目指す方は、大学の知名度や大まかな専攻の名称だけで選ぶのではなく、以下のような点に着目して大学のリサーチを進めることをおすすめします。
- 具体的な履修科目の中に、データ分析やファイナンスなどの実践的なカリキュラムが含まれているか
- 専攻分野と産業界の連携プログラムやインターンシップの機会が提供されているか
- 専攻を問わず、AIリテラシーや定量的思考力を養う講義が開講されているか
今からできる出願準備とキャリアを見据えた進路選択
高校生のうちから将来の労働市場をすべて予測することは困難ですが、変化に対応できる柔軟性と情報収集の姿勢を身につけることは可能です。
志望専攻のカリキュラムとキャリア支援を精査する
大学のウェブサイトを調べる際は、専攻紹介のページだけでなく、学部ごとの「卒業生の主な進路(Graduate Outcomes)」や「カリキュラム要件(Curriculum Requirements)」を確認してください。大学側が産業界のニーズを反映した授業内容への見直しを行っているか、どのような企業とのパートナーシップを持っているかを調べることで、その大学が社会の需要に即した教育を行っているかどうかがわかります。
技術理解と人間特有の強みを組み合わせる
AI時代の進路選択においては、プログラミングなどの技術そのものを学ぶことと同じくらい、創造的な課題解決力、批判的思考力(クリティカルシンキング)、継続して学ぶ姿勢が評価されます。課外活動や学校の探究学習において、テクノロジーを活用しながら自ら課題を発見し、他者と協働して解決に取り組んだ経験は、海外大学の出願エッセイでも高く評価される要素となります。
まとめ:将来のキャリアを見据えた海外大学選びに向けて
Nous GroupとStudyportalsの調査は、学生がイメージする人気専攻と、実際の雇用市場で求められるスキルとの間に少なからずギャップがあることを示しました。特に米国では、工学、ファイナンス、会計、看護といった実務的・社会基盤的な分野で人材不足が続いています。
海外大学への進学は、多大な時間と費用を伴う大きな挑戦です。自分の興味や関心を最優先にしつつも、大学側がどのような実践的教育を提供しているのか、そして社会でどのようなスキルが求められているのかという現実的な視点を取り入れることで、卒業後の選択肢を大きく広げることができます。各大学の公式案内やキャリア支援情報を入念に確認しながら、納得のいく大学選びを進めていきましょう。
出典・参考
- Are students choosing university programmes aligned with the skills employers need most?ICEF Monitor(2026.11.03)
本記事は上記の公開情報をもとに、MINISTUD編集部が日本の受験生・保護者向けに要点と影響を解説したものです。出願要件や日程は年度・大学ごとに変わるため、最終的には必ず各大学・公式機関の最新情報をご確認ください。
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